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事例36 株式会社小坂工務店

事例 36

株式会社小坂工務店
派遣社員の正社員転換を通して、優秀な社員の戦力化に取り組む

出典)株式会社小坂工務店提供資料より転載


会社設立年 1969年
本社所在地 青森県三沢市南町4丁目31番地3469号
業種 総合建設業、不動産仲介・販売・賃貸業、携帯電話販売業
正社員数
(2017年6月21日現在)
51名(男性27名、女性24名)
非正規雇用労働者数
(2017年6月21日現在)
派遣社員 8名
資本金 2,500万円
売上高
(2016年12月20日現在)
28億1,499万円
取組概要 <背景>
・人手不足の恒常化
・本社所在地域の特殊性もあり、優秀な人材の確保が必要
<内容>
・派遣社員の正社員転換を実施
・正社員に転換後に時短勤務をすることも可能
<効果・結果>
・従業員全体の1割を派遣社員からの正社員転換者が占める
・従業員のモチベーションアップ
・社員数の増加:2006年30人→2016年44人
・離職者の減少:2006年5人→2016年1人
・売上高の増加:2006年20億円→2016年28億円

PDFデータ

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出典)株式会社小坂工務店提供資料より転載

 同社は1958年に青森県三沢市で創業。創業当初から総合建設業を中心に発展してきた。1969年には株式会社として設立。現在に至るまで、三沢市内で事業を展開している。
 主な事業は建設業、不動産仲介・賃貸・販売事業、携帯電話販売事業の三つである。建設業については、市内の主要公共施設、ビル、工場、店舗等建築実績は多岐に渡る。マンション建設の経験を活かして、不動産仲介・賃貸・販売業にも進出。転勤で市内に来る方の住居確保を支援している。携帯電話事業については、三沢市内の米軍基地内の建築実績がきっかけとなり、事業を開始した。全国で沖縄県以外では唯一の米軍基地内の携帯電話ショップを経営している。
 市外への人口流出や少子高齢化等に早くから会社全体で取組を開始しており、2002年頃から、社長の強い意思の下で業務改革や人材確保・人材育成に積極的に取り組んでいる。特に男性従業員中心で女性が少ないとのイメージを持たれがちな建設の現場において、いち早く女性管理職を登用する等、会社の存続・発展のために従業員の活躍できる環境整備に注力している。また、2008年には創業50周年を迎えたことから、「100年企業」をめざして顧客・従業員・地域社会のすべてに貢献できる会社への発展に取り組んでいる。


1.取組の背景

◆人材不足の恒常化

 同社では、正社員を新卒採用で確保している。新卒採用については、長期的に勤務して会社に貢献してもらうことを期待しているため、ミスマッチを防ぐ観点から一次面接と二次面接の間にインターンシップ研修を実施する等、丁寧な採用活動に取り組んでいる。一方で、新卒採用のみでは会社の人員確保が不十分であることから、非正規雇用の採用も適宜実施している。建設部においてはプロジェクトに合わせて雇用を実施し、その他の部では退職等による人手不足に合わせて新規採用を行っている。
 しかし、転出者の増加や少子高齢化が進む中で市内での人材の取り合いが発生しており、近年は人手不足感が強まっている。求人広告を出しても希望の人材が確保できないことも増えてきており、100年企業をめざして事業拡大を進める同社にとって、人手不足は深刻な課題となっている。


2.取組の内容(派遣社員の正社員登用)

◆優秀な派遣社員の直接雇用

 同社では、非正規雇用として派遣社員の活用を、長きに渡って続けている。会社の業務内容が創業当時からの建設業以外に、不動産仲介業や携帯電話ショップ経営等多角的に発展していく中で、各事業の運営に適切な専門性を持つ人材を派遣社員として受け入れ、事業拡大に成功してきた。特に、三沢市という地域柄、米軍基地や航空自衛隊の基地が近いことから英語ができる人材を確保したい等、人材に専門スキルを求めることもあるため、派遣社員の活用は人員確保の観点からも、事業拡大の観点からも適切な選択であった。
 そのような中で、優秀な派遣社員を直接雇用として正社員に登用する取組を、2007年から継続して実施している。派遣社員のうち、勤務実績が優秀で正規雇用(直接雇用)に興味を有する者に声かけを実施。派遣会社にも申し入れを行って、直接雇用に切り替えている。
 派遣社員から登用をするのは、優秀で会社にマッチする人材である可能性が高いためである。社員が長期的に活躍することを望む同社にとって、ミスマッチによる早期退職はリスクであると共に人件費的にもコストがかかる。その点、派遣社員の場合には、長年の会社間の信頼関係によって会社の特性を理解した上で派遣人材が決定されるため、「一緒に働ける人」である可能性が高い点が正規雇用への登用を進める理由である。
 同社で派遣社員が正社員に転換する場合には、以下のようなプロセスが実施される。


正社員登用までのプロセス

出典)株式会社小坂工務店へのヒアリング調査をもとに作成



 まず、派遣開始時点では、派遣社員として働きながら正社員をめざす「紹介予定派遣」ではなく、一般的な派遣社員として派遣契約を結んでいる。これは派遣社員の中には派遣契約を継続したい者や比較的短期で業務を終了する者が一定数存在するためである。ただし、長年の正社員登用の実績から、派遣会社からも派遣社員に対して、事前に「小坂工務店では派遣社員から正社員登用の可能性がある」と伝えられていることが多い。そのため、派遣社員の大多数は、同社に登用制度があることを認識した状態で派遣業務を開始する。
 派遣が開始されると、派遣社員として正社員や他の派遣社員と一緒に業務を実施する。折に触れて、同社の人事からも正社員登用制度があることは伝えるようにしている。登用を事前に聞いていた派遣社員は、会社側からも説明を受けることで「実際に登用されることもあるのだ」と安心する。登用があることを知らなかった場合でも、この案内が仕事に対するモチベーションの源泉となる。
 実際に登用の判断を行うのは派遣開始から1年を経った頃である。1年間継続して勤務する中で、勤務態度や人間性、意欲等を総合考慮して候補者を検討していく。最終的な登用決定までにはさらに1年程度を要するが、1年目終了時点で、候補者の選定はほぼできている。登用を決定するまでの残りの1年間で引き続き意欲や能力を観察するとともに、会社への帰属意識や正社員(正規雇用)への意識等も把握する。派遣社員の中には派遣という雇用形態を好む者もいるため、本人の意思を見極めるようにする。また、特に女性の場合にはライフステージのタイミングによっては登用が難しい場合もあるため、丁寧なコミュニケーションを実施することで、本人の望む働き方ができるように心がけている。
 2年間の勤務実績や本人の意思を含めて、最終的には派遣社員の直属の上司が登用の有無を判断する。基本的には判断権限は各部にあるため、現場で該当する派遣社員を最もよく見ている上司の判断が採用される。その後派遣会社へ申し入れを行い、更新時期のタイミングに合わせて直接雇用に変更する。


◆取組にあたってのポイント(正社員と区別のない育成、短時間正社員制度)

 多くの派遣社員に正社員登用に前向きになってもらうための工夫として、同社では二点の取組を実施している。
 一点目は研修の統一である。同社では正規雇用と非正規雇用で特段研修内容や業務内容を区別していない。そのため、習熟度訓練等は雇用形態に関わらず同一の内容となっている。この結果、派遣社員でも勤務継続に伴い、正社員と同様の業務習熟度に到達することが可能である。この取組によって、派遣社員から正社員に転換する際の、「業務負担が重くなるのではないか」「自分にはできないのではないか」といった漠然とした不安を取り除くことが可能になっている。外部研修や出張を伴う研修も派遣社員の段階から参加することが可能であるため、早く成長したい方にとっては育成の機会が多い体制となっている。
 二点目は勤務形態の柔軟化である。派遣社員で勤務する女性の中には、就労可能時間に制約があって派遣労働者という働き方を選択している者も多くいる。このような制約を持つ者にとっては、正社員転換が8時間勤務必須の労働条件のみの申し出の場合には、転換は事実上不可能となってしまう。そこで同社では、通常の正社員以外にも週当たり所定労働時間を20時間以上30時間以下に限定した短時間正社員制度を導入している。派遣社員から正社員に転換した方の利用実績としては、2017年度までに、
 ① 派遣社員から正社員に転換。その後結婚・出産を理由として短時間正社員に転換
 ② 派遣社員から正社員に転換。介護により短時間正社員に転換
の事例がある。そのため、社内で働く派遣社員にも正社員転換後にライフイベントに合わせた柔軟な勤務が可能であることが周知されており、正社員転換を前向きに検討する一因となっている。


3.取組の内容(その他)

◆制約のある人が働きやすい環境の整備

 同社では派遣社員を正社員として戦力化していくとともに、すでに正社員として勤務する者の働きやすい環境、長く勤められる環境の整備にも力を入れている。
 一点目が治療と職業の両立である。過去に難病に罹患した従業員が長期休業の必要に迫られたことがあった。その際に「私傷病のための特別休暇」を有給で設置。病気や怪我で長期入院となっても安心して治療とリハビリに取り組むことができるよう、退院後の療養期間も対象として設定している。また、仕事復帰にあたっても勤務形態そのものを本人と会社で相談して決定するようにしており、柔軟な勤務が可能となっている。一日の勤務時間を短縮する、週の勤務日数を削減するなど、治療や体調の特性に合わせた復帰が可能となっている。
 二点目がテレワークの導入である。社内全体で女性の割合が高まっていることもあり、仕事と家庭の両立が重要な課題となっている。以前より短時間正社員制度は導入していたが、さらに会社に出社しなくても勤務として認定するテレワーク制度を新設した。出社の義務を免除し、自宅内での業務遂行のみでも就業として認めている。可能な業務が限定されるため、現在は試験的な導入にとどまっているが、IT技術の進歩や事業内容の変革に伴い、順次適用範囲を拡大していく予定である。


4.効果と課題、今後の運用方針

◆社員の約2割を占める派遣社員出身者

 2017年6月現在、同社の正社員51名中12名が派遣社員出身者であり、全体の約2割を占めている。今までに派遣社員として勤務開始をした者のうち、約3割が正社員に転換しており、2007年の転換の取組開始以来、毎年正社員登用の実績がある。実際に会社側が転換候補者として打診した者については、7割程度の確率で転換が実施されている。これは登用制度が社内で認知されているとともに、会社側と派遣社員、派遣会社とのコミュニケーションが円滑であることが大きい。
 正社員登用の派遣社員にとっての一番のメリットは、処遇の改善である。時給制から月給制に変わることによって給与が安定する。さらにこれに加えて成果給の支給があるため、努力や成果が報酬に繋がっているという実感を得やすい。会社にとってのメリットとしては、新しい視点の導入があげられる。異なる背景を持つ者が入職することで、日々の会社業務に対する気づきや改善提案が生まれる。転換者自身も、会社への帰属意識を持つことで、会社に対する改善提案が出て来る。
 同社では、優秀な人材の正社員登用を今後も実施する予定である。課題は、派遣社員としての職歴が長い者の定着率向上である。育成の充実や正社員と同一の業務内容等の同社の特徴は、派遣社員としての経験が長い者には、時に負担が重い派遣先として認識されることがある。会社と派遣社員の認識や期待の差を埋めていくことで、会社全体が気持ちよく働ける環境の整備を進めていく。


5.活躍する従業員の声

通信事業部
高杉 千賀子さん

年代 30代 性別 女性
勤続年数 12年
キャリアアップの過程 2006年派遣社員として勤務開始。新規事業として開店したauショップの販売員として業務を担当。
2007年正社員に転換。
2010年にauショップ店長に就任。
2012年通信事業部課長に就任。

◆専門職からの転身


出典)株式会社小坂工務店提供資料より転載

 現在は通信事業部の課長として同社で10名の部下を指導する高杉さん。過去に2社での正社員経験を経て同社に派遣社員として勤務を開始した。派遣社員から正社員への転換を打診された時は「正直迷った」と語る。正社員として勤務した2社目ではWebデザイナーの業務を担当しており、同社への派遣も「Webデザインと接客」の二つの業務が経験できることが大きな魅力であった。今後もWebデザイナーとして専門職としてのキャリアを積むか、同社で正社員、特にauショップの新規事業を支える業務に注力するかが悩んだ理由である。しかし、最終的には、派遣時の環境や人間関係がよかったことが決め手となり、転換を決断した。

◆課長として、次世代のリーダー育成に取り組む

 正社員転換後の一番の違いは「コミュニケーションが増えたこと」と語る高杉さん。派遣社員から「会社の人間」になったことで、所属本部以外の従業員と接する機会が増えたためだ。また、勤務時間内に積極的にコミュニケーションすることを、自らも意識するようになった。もう一点大きな違いは、外部研修への参加機会が増えたことである。出張を伴う研修への参加の機会が増えた。
 ショップのメンバーから店長を経て現在は課長として後輩の指導等管理職として活躍するが、目標は「次の課長を育てること」だと話す。若手を中心に次世代リーダーの育成をめざして日々業務に取り組んでいる。

通信事業部
小比類巻 桃子さん

年代 30代 性別 女性
勤続年数 11年
キャリアアップの過程 2007年派遣社員として勤務開始。auショップの窓口業務を担当。
2009 年正社員に転換。
法人営業や事務部門を経験。2017年現在は育児中のため在宅勤務(テレワーク)を実施。

◆勤務開始時から正社員転換を希望

 他社でのパートタイム勤務と派遣社員としての勤務経験を持つ小比類巻さんは、前職でも営業や接客に従事していた。偶然にも派遣会社に登録した際の担当者が直前の派遣先の上司の友人であり、その縁で派遣先として同社を紹介された。
 派遣業務開始時点から正社員への転換を希望していた小比類巻さん。転換を打診された時は、非常にうれしかったと語る。そのため、転換意思を固め、正社員として同社に勤務することとなった。

◆「正社員」としての重圧を乗り越えて


出典)株式会社小坂工務店提供資料より転載

 転換直後は、「正直以前より悪くなった」と感じる機会が増えたという。それまでの「派遣社員」の立場から「正社員」に立場が変わったことで、その責任感を重圧に感じたことが原因だった。特に、正社員に転換することによる日々の業務の変化が大きく、適応に時間を要した。しかし、業務に慣れると自然に不安や重圧もなくなった。現在では、この時に感じた不安が会社全体や自らの働き方を見つめなおすきっかけになったと話す。
 過去に携帯電話の法人営業や事務職、auショップの店長経験を有するが、現在は育児との両立にテレワークで取り組む。自身も含めた女性従業員の働きやすさや長く働ける環境のさらなる実現を目標としている。





総務部
佐藤 香澄さん

年代 20代 性別 女性
勤続年数 6年
キャリアアップの過程 2012年派遣社員として勤務開始。総務部にて経理業務を担当。2013年正社員に転換。引き続き、経理業務を担当。
2017年4月より課長補佐に就任。

◆知人をきっかけに派遣会社に登録

 派遣社員として勤務する以前、佐藤さんは、同社に在籍する知人から経理業務のポストに空席が出ることを聞き、派遣会社に登録した。派遣会社の登録自体が同社への派遣を希望してのことだったのである。勤務開始前から「正社員になれる機会があることは聞いていた」と話す佐藤さんは、転換の打診を受諾し、勤務開始1年後に正社員に転換した。

◆管理職に挑戦


出典)株式会社小坂工務店提供資料より転載

 転換前と転換後にそれほど違いはないが、「残業代を気にかけるようになった」と語る。転換後は正社員として会社の経理を預かる立場。転換以前と比較して、経費の取扱い等に敏感になったと感じる。一方で、正社員になったことで、心にゆとりも出たという。
 入職以来一貫して経理に従事する佐藤さんは、4月より課長補佐として管理職への一歩を踏み出した。これを機に、自分より若い社員の出産・育児復帰を支援したい気持ちが強まったと話す。自身も育児と仕事の両立を実現しているが、今後はさらに若手の支援にも積極的に取り組む。