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事例42 株式会社大丸松坂屋百貨店

事例 42

株式会社大丸松坂屋百貨店
「専任社員」、社員(エリア限定)の新たな雇用区分の創設により、パートナー(有期契約社員)の活躍・活用を促進

出典)株式会社大丸松坂屋百貨店提供


会社設立年 2010年(大丸:1717年、松坂屋:1611年)
本社所在地 東京都江東区木場2丁目18番11号
業種 卸売業、小売業
正社員数
(2018年1月現在)
5,308名
非正規雇用労働者数
(2018年1月1日現在)
専任社員(無期契約社員)1,036名
パートナー(有期契約社員)57名
資本金 100億円
売上高
(2016年度2月)
6,700億円
取組概要 <背景>
・「女性・60歳以降・有期契約社員」の活躍・活用
・働き手の価値観やライフスタイルの多様化への対応
<内容>
・有期契約社員の無期化
・エリア限定社員の新設
・正社員登用
<効果・結果>
・人材の一層の戦力化、現場の競争力強化
・採用競争力の高まり、人材の確保
・従業員の安心感向上、人材の定着
・従業員のキャリア展望・選択肢の拡がり、仕事へのコミットメントの強まり

PDFデータ

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 同社は、2010年3月、ともに創業200年を超える老舗百貨店である株式会社大丸と株式会社松坂屋が合併し、誕生した。株式会社大丸と株式会社松坂屋ホールディングスの経営統合により2007年9月に設立した、共同持株会社「J.フロント リテイリング株式会社」(略称、「JFR」)が展開する事業グループに属する。
 現在、札幌、東京、静岡、名古屋、京都、大阪、神戸など、全国主要都市に14店舗の百貨店を展開する。グループビジョン“くらしの「あたらしい幸せ」を発明する。”の実現に向け、変化する時代にいち早く呼応する「新しい百貨店ビジネスモデル」の構築をめざし、小売業の枠にとらわれることなく、柔軟な発想でチャレンジを続ける。
 2012年9月には、同社の100%出資により株式会社大丸松坂屋セールスアソシエイツを設立。販売業務、教育研修業務の運営を委託し、販売力とサービス力の強化とともに、効率的運営、戦略推進を図る。


1.取組の背景

◆「女性・60歳以降・有期契約社員」の活躍・活用

 大丸松坂屋百貨店と同社が100%出資し販売・教育研修業務を受託運営する大丸松坂屋セールスアソシエイツ(以下、「DMSA」)では、同社グループとして長期(10~20年先)の要員見通しを行った結果、グループレベルの最適配置の推進と、「女性・60歳以降・有期契約社員」のさらなる活躍・活用の促進が課題として明らかになった。
 同社グループの従業員については、女性が多く6割以上を占めていた。同時に、60歳~65歳の定年再雇用者も増加していた。さらに、有期契約社員である「パートナー」の活躍がめざましく、無期化実施直前の2017年5月時点では従業員全体の3割に達するなど、店頭業務における基幹人材となっていた。
 このような状況を踏まえ、女性、60歳以降、有期契約社員それぞれが事業運営に欠かせない役割を担っており、ますます活躍してもらいたいとの認識に至ったのである。

◆働き手の価値観やライフスタイルの多様化への対応

 また、国が主導する働き方改革の進展や労働市場における人材確保の厳しさなど、人事・労務をめぐる外部環境の変化は著しく、加えて、働き手の就業観・価値観やライフスタイルは、一層多様化が進んでいる。
 こうした社内外の環境変化に対応し、同社グループでは、働き方の選択肢を拡大し、キャリア形成と生活とのバランスについて、働く者が自律的に考え行動できる基盤を整備し、組織活力の向上をめざすこととした。そのことにより、親会社であるJFRの新たなグループビジョン“くらしの「あたらしい幸せ」を発明する。”の実現に向けた、「JFR Way」の実践に資する考えである。
 大きなきっかけとなったのが、労働契約法の改正による無期転換ルールへの対応である。これを機に、法制度の施行を待たずに、すべての従業員が安心して、もっと活躍できるよう、同社グループの雇用区分の再構築に取り組むこととなった。


2.取組の内容①(有期契約社員の無期化)

◆無期雇用の「専任社員」を新設

 一つには、2017年6月、パートナーの雇用期間を無期にするととともに、労働諸条件の一部を引き上げた「専任社員」を新設した。
 パートナーは、雇用期間を1年とする有期契約のエリア・職務限定社員である。勤務地を札幌、首都圏、静岡、中部、関西の5つのエリア(地区)に区分し、それぞれのエリアに限定して勤務する。担当職務は、店頭販売及び後方でのレジ、事務・軽作業、もしくは、お得意様営業である外販に限られる。無期化実施直前の大丸松坂屋百貨店のパートナー数は1,100名であり、そのうち6割がDMSAに出向して勤務していた。また、DMSAにも700名のパートナーがいた。
 このうち入社1年を越える者を対象とし、これまで1年ごとに契約更新していたところを、雇用期間を無期に転換した。国の制度では、無期転換の対象条件は勤務5年以上のところを、同社では1年以上とした。これまでも、1年目は試用期間としての取扱いで、2年目に向けて契約更新した者は概ねがその後も毎年更新していた。2年目に向けた契約更新は、継続して働いてもらうかどうかを1年でみきわめ、続けて即戦力として働いてもらうということを実質的に意味していた。このため、雇用区分がパートナーから「専任社員」に変わっても、その意味合いは変わらないが、無期雇用とすることで従業員のモチベーションアップを図った。

◆無期転換後も働き方は変わらず労働条件は長期雇用をふまえ見直す

 「専任社員」となっても、エリア・職務限定という点はパートナーと変わらない。
 「専任社員」における階層的に職務を定義する役割グレード及び給与制度、評価制度についても、パートナーにおける現行と同様の基準ならびに運用とした。評価も、パートナーの時から、社員と同様の成績考課表を用いて目標設定を行い、それをもとに自己評価・上長評価を行っていた。
 60歳に到達した者を対象とするパートナー継続雇用制度も、同等の条件で、専任社員再雇用制度として引き継がれることとなった。
 一方、労働条件面では、休業扶助等を社員と同条件とすることとした。これにより、病気等で休んだ際に、賃金の80%が支給される。これまで休業扶助及び欠勤控除などの諸条件は、有期雇用のパートナーには適用されていなかった。


再構築後の雇用区分編成

出典)株式会社大丸松坂屋百貨店提供資料をもとに作成



 このように、「専任社員」制度は、パートナーの働き方を継続しつつ雇用期間を無期化するとともに、労働条件についても長期雇用を前提に一部の見直しを図ってきたものである。

◆対象者ほぼ全員が一斉に転換

 手順としては、2017年3月にパートナー全員を対象に、説明会を開催した。次に、毎年6月に行う契約更新の確認のタイミングで、入社1年以上という条件を満たしていれば、全員を無期雇用の「専任社員」に転換した。特に、試験などは行わなかった。パートナーにとって、転換することによるデメリットはなく、転換を拒む条件はなかった。このため、大丸松坂屋百貨店の1,100名のうち1042名、DMSAの700名のうち600名と、このタイミングで対象者のほぼ全員が一斉に転換した。


3.取組の内容②(エリア限定社員の新設)

◆5つのエリアから勤務地を選択するエリア限定社員

 同社では、2017年9月に、「社員(エリア限定)」を新設した。社員は、職務・勤務地ともに限定がない雇用区分である。これに対して、「社員(エリア限定)」は、先述の5つのエリア(地区)から勤務地を選択し、限定することができる。
 地元志向の高まりや職責の重い役割を望まない等、就労観の多様化が進んでいる。ワーク・ライフ・バランスをより重視する傾向もみられる。こうした変化に対応し、働き方、キャリア形成、処遇条件などを、働く者が主体的かつ自律的に選択することができる制度として新設した。これにより、会社と従業員の新たな関係性の構築をめざす。
 社員から「社員(エリア限定)」への転換は、半年ごとに設定される申請期間内に、本人が自己申告することにより行うことができる。申請にあたり、理由を問われることはない。いったん転換後も、また、「社員(エリア限定)」から社員に戻ることもでき、社員⇔「社員(エリア限定)」の相互転換を可能とし、回数に制限も設けない。
 「社員(エリア限定)」は、勤務地が限定されるという点では「専任社員」と同じであるが、職務については限定がなく、担当職務や役割グレード、給与体系等の面では社員と共通であり、「専任社員」と一線を画す。
 現在、「社員(エリア限定)」は696名で、社員全体の約2割近くを占める。


「社員(エリア限定)」の適用状況(2017年度下期)

出典)株式会社大丸松坂屋百貨店提供資料をもとに作成




4.取組の内容③(正社員登用)

◆専任社員からエリア限定社員、限定なし社員への登用

 現状、同社では、「パートナー」、「専任社員」、「社員(エリア限定)」、「社員」の4つの雇用区分がある。このうち「パートナー」から「専任社員」へは、基本的に1年超の勤務で契約更改とともに転換する。続いて、「専任社員」から「社員(エリア限定)」、「専任社員」から「社員」への登用制度が整備されている。


雇用区分編成再編後の運用イメージ

出典)株式会社大丸松坂屋百貨店提供資料をもとに作成



 「専任社員」と「社員(エリア限定)」が創設される以前から、「パートナー」から「社員」への登用は制度化されていた。5段階中3段階以上の役割グレード(等級)で1年以上の経験年数があり、全国勤務が可能であることが、対象者の資格要件。自薦でエントリーし、個別面接、試験(適性・基礎学力)、成績考課、行動特性多面観察データ、職制情報等をもとに、全社の検討会議により総合的に検討、判定される。営業成績がよいという「今」の状態ではなく、視野の広さや課題把握力など将来的にマネジメントラインをめざせる人かどうかを評価していた。2015年度には60名が受験し、14名が転換した。続いて2016年度11名、2017年度7名と、実績を積んでいる。
 こうした正社員登用の仕組みが、2018年6月以降は、「専任社員」から「社員(エリア限定)」及び「社員」の間に適用されるようになった。以前の登用制度と同様の選考方法・基準が設定されている。従業員のチャレンジに向け人材教育・研修についても、JFRグループが実施する264のコースや講座からなる「キャリアサポートカレッジ」により、すべての雇用区分を対象に推進する。


5.取組の効果、今後の運用方針

◆従業員の安心感、採用競争力の高まり

 パートナーから無期雇用の「専任社員」に転換した効果として、会社の期待感が伝わり、安心感が高まるなど、従業員の気持ちの変化を感じる。実際、休業扶助ができたことで、専任社員は、病気の際も安心して休めるため、また復帰して働くことができている。
 DMSAは販売のための子会社なので、販売という役割に限定した雇用区分として、「専任社員」を採用するようになった。従来、パートナー(有期契約社員)の雇用区分で採用していた頃に比べると、無期雇用になったことで学生・学校側の反応が変わり、採用競争力が高まるという効果もみられた。
 将来的な効果として、「社員(エリア限定)」ができたことにより、パートナーから「専任社員」、「専任社員」から「社員(エリア限定)」というキャリアパスが整ったことで、従業員のモチベーションアップやマネジメント人材確保につながることも予想される。

◆従業員が働き方を選択できる制度整備

 同社では店頭販売の重要性が高く、販売を担当する「専任社員」に、より高い業務をめざし、上にチャレンジしたいという気持ちを持って欲しいと考える。しかしその一方で、重い職責は担いたくない、ワーク・ライフ・バランスを重視するなど、価値観の多様化も進む。
 こうした状況を踏まえ、自分のキャリアやライフサイクルにあわせて、自分で働き方・雇用区分を選んでいけるよう、また気付きを与えるよう、引き続き諸制度を整備していく方針である。
 また、女性、60歳以降をいかに活用するかは、引き続き大きな課題である。
 同社では現在、育児と両立しながらキャリアアップを志向する女性に焦点を当てた、雇用形態を構想中である。不動産事業など事業領域の拡大や、業務の専門性がこれまで以上に求められる中、不動産・法務・財務担当者等の専門人材を外部採用するうえで、育児中の女性でスキルやノウハウを有する者をプロフェッショナルとして採用し、生活と仕事の両立が可能な働き方を実現する考えである。働く女性に「夢」を与えることも同社は使命と考える。


6.活躍する従業員の声

大丸東京店 営業2部
ビジネスウェア チーフ
水嶋 亜矢子さん

年代 40代 性別 女性
勤続年数 15年
キャリアアップの過程 2001年9月に、同社グループ派遣会社の派遣社員として大丸京都店で働き始め、2002年5月にパートナーとして入社。以後、同店紳士服売り場の店頭販売に従事。
2016年6月、限定なし社員に転換
2017年3月、大丸東京店に転勤

◆短期の派遣社員からパートナーへ

 水嶋さんは、2001年9月に、同社グループ派遣会社からの派遣社員として、大丸京都店で働き始めた。当時は、派遣社員として百貨店で働きながら就職活動をしていた。派遣社員としての勤務は短期派遣で、婦人服売場などいろいろな職場をまわり、次に仕事があるかどうか不安だった。
 半年ぐらい働いた頃、職場の社員に声をかけてもらい、パートナーとして同社に入社した。パートナーとして安定した仕事を得ながらも、引き続き就職活動を継続しようと考えていた。
 パートナーになってからは、紳士服のスーツ担当となった。在庫管理や顧客管理なども担当し、仕事の幅が広がった。独学で、調べたり、見に行ったり、スペシャリストに習いに行ったりするうちに、いつしか百貨店の仕事が面白く感じられてきた。
 そのうち紳士服のブランド店の店長になり、同社のチームリーダーやサブマネージャーと仕事をするようになった。ブランド店の店長という小さい箱での管理職の、さらに上にはチームリーダーやサブマネージャーがいて、さらに上があって・・・ということで、もっと知りたい、もっと手伝いたいと思うようになっていた。

◆将来を考えて社員に転換、そして東京へ

 その後、紳士服のブランド店の店長として働き、2016年6月にパートナーから社員に転換した。当時は「専任社員」、「社員(エリア限定)」の雇用区分はなかった。社内イントラネットで、社員転換希望者の募集についての告知を見たが、自分の仕事のスキルに不安があったため1年目は手をあげず、2年目にチャレンジした。1年目も2年目も、ともにマネジャーから「あなたは絶対受けるべき」と強く薦められていたことや、社員になれば退職金が出ることもあり、将来を考えて社員転換の試験を受けてみようと思った。
 社員転換後も、同じブランド店の店長の仕事をしていたが、2017年4月に東京転勤を命じられた時は驚いた。社員転換の資格要件に「全国勤務が可能」とあることは認識していたが、現実のこととなるとは想定していなかった。同じブランド店で一番売上が高い店舗に異動することとなり、異動後は、日々、勉強である。京都と東京では、市場が違う、商品やお客様の流れが違う。東京はいろいろなものの先端だと感じる。まず東京で売れて、大阪、京都に流れる。京都のお客様は保守的だが、東京のお客様はデザインと色両方に特徴があっても、買って行く。地域の特色が、店舗にも出る。「東京は、売上が大きいのでうれしい。まわりのスタッフや上司との関わり、業界の関係者とのコネクションづくりも、スキルになる」と言う。


出典)株式会社大丸松坂屋百貨店提供



◆せっかく東京に来たのだから一旗上げる

 水嶋さんは、「こんな機会がないと、京都を出なかった」と言う。転勤がないと、ずっと京都か、もしくは大阪など関西にいたはずだと。首都圏という大きいところで初めて働くことになった。本部・本社が多いのが東京。同じブランドの店舗でも、東京にある支店はプレゼンスが高い。転勤がないと、人脈、新しい人間関係をつくることはなかった。転勤があってよかったと、今は思う。
 「せっかく東京に来たのだから、がんばろうと思う。さらに上をめざそうと思う。一旗上げる。」
 今後は、商品が好きなので、バイヤーや商品開発を担当したい。店長職を10年間やっているので、一度離れて、違う役割や違う部署で働いてみたい。
 パートナーの頃、「有期契約社員は進む道がないと思っていた」とのこと。バイヤーやマネジャーは社員がなっていた。社員に転換した今は、本部の仕事や開発の仕事をやりたいと、夢がふくらむ水嶋さんである。


出典)株式会社大丸松坂屋百貨店提供