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事例43 東京急行電鉄株式会社(セラン事務局)

事例 43

東京急行電鉄株式会社(セラン事務局)
郊外住宅地で事務職としての多様な就労機会を提供しつつ、非正規雇用労働者の段階的なキャリアアップを推進

出典)東京急行電鉄株式会社(セラン事務局)提供


会社設立年 1990年
本社所在地 神奈川県横浜市青葉区新石川2-5-5
業種 サービス業
正社員数
(2017年4月1日現在)
13名
非正規雇用労働者数
(2017年4月1日現在)
契約社員7名、臨時雇49名
資本金
売上高
(2016年度)
494,787千円
取組概要 <背景>
・東急多摩田園都市の二次開発の一環として、通信ネットワークを活用
<内容>
・東急沿線在住の主婦層を中心とした女性へ多様かつ柔軟な働き方ができる場の提供
・職務限定正社員への登用
・正社員登用等
<効果・結果>
・働き手のモチベーションアップ
・職場としての魅力向上
・日本一住みやすい沿線の実現に寄与すること

PDFデータ

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 セラン事務局は、東急電鉄の1つのセクションとして、1990年9月に設立された。東急多摩田園都市開発の二次開発の一環との位置付けの下に、田園都市線沿線在住の主婦層を中心に、通信ネットワークを利用して働く場とコミュニケーションの場を提供していくことを目的にスタートした。
 東急グループ各社を主要クライアントとし、これらの各部署に対して、情報処理、企画制作、マーケティング(2017年度末で終了)、とくらく(Webメディア)運営の各分野における実務で貢献。データ処理、アンケート集計、封入・発送、各種事務局代行、紙媒体等の企画・制作、印刷等の業務を受託し、事業の範囲と量を拡大してきた。
 設立以来、同局で働いた女性は、のべ約1,000名(記録がある1996年以降。この内、自宅作業者は約500名)に達する。現在では一般的であるICTを設立当初より活用し柔軟な働き方を実現することで、多くの育児期女性に多様な就労機会を提供してきた、先駆け的存在といえる。
 2018年10月に、現在の所在地である東急田園都市線たまプラーザ駅南口エリアから北口エリアへの一部機能移転を控え、時代や環境の変化に対応しながら、沿線に住む育児期女性に対する「身近な就労機会の提供」という本来の役割を強化する方向にある。


1.取組の背景

◆育児期女性の多様な価値観への対応

 同局は、元々、田園都市線沿線に住む主婦層が働く場として設置され、多くが子どもを育てながら働いていた。設立当初は、学校帰りの子どもが職場に立ち寄り、一緒に帰宅する光景はよく見かけることであった。
 沿線の特性上、若い頃、都心でキャリアとして働いた経験を持つ女性も多い。そうした女性にとって、同局は都心郊外の住宅街には珍しい、事務職として働くことができる格好の職場であり、設立以来、人手集めに困ることはなかった。その一方で、価値観の多様化が進む中で、働く場として、女性の仕事に対するさまざまな考え方や意識に対応する必要があった。

◆事業拡大にともなう非正規雇用労働者の戦略化の動き

 また、東急電鉄の事業の更なる多角化が進み、グループ内における同局の位置付けや役割・期待は次第に変化していった。同局は、当初、同局内ですべてを作業し処理していたが、事業範囲や業務量の広がりによって、登録会員や協力会社など外部へも出すようになった。こうした状況が、同局の効率的な受注体制を築き、更に同局雇用の拡大につながっていった。





2.取組の内容①(多様な働き方)

◆5つのチームに分かれる業務内容

 同局では、現在、「情報処理」「企画制作」「とくらく運営」「マーケティング」「サポート」の5つのチームに分かれて、業務を行う。情報処理チームは、コールセンター業務やキャンペーン等の事務局代行業務(サイト運営、電話受付、発送業務等)、入力業務(各種会員組織の申込情報の入力、リスト化等)を行う。企画制作チームは、東急電鉄の会社概要や鉄道の広報誌、地域のお店やイベントを紹介するコミュニティ誌など様々な紙媒体の制作を中心に手掛ける。とくらく運営チームは、東急沿線のヒト・コト・モノ・バの情報や、まちのデータを伝える東急電鉄のWebメディア「とくらく」を運営する。マーケティングチームは、東急グループのモニター組織「KOETOMO(こえとも)」の会員向けアンケートやインタビューの実施、そして、それを踏まえた新しい商品やサービスの企画検討を担当する(本業務については、2017年度活動終了予定)。最後にサポートチームは、同局の管理部門にあたる。


業務内容

出典)東京急行電鉄株式会社(セラン事務局)提供資料、同社へのヒアリング調査をもとに作成



◆多様な雇用形態で多様な働き方を実現

 業務内容は5つのチームに分かれながら、業務体制としては、ディレクション業務を行う「デスク」と、デスクからの指示を受けて、実作業をする「実務スタッフ」に分かれ、さらにデスクは、二つの雇用形態から構成される。
 デスクは、事業特化職社員と契約社員からなる。事業特化職社員はセラン事務局の事業にのみ従事する職務限定の正社員であり、同局の中で異動できる。事業特化職社員は現在11名で、その中から、チームごとに1人ずつマネジャーを配置し、その下にアシスタントマネジャーがつく構造になっている。契約社員は、フルタイムで働く非正規雇用労働者で、現在6名。1年ごとに契約更新を行い、月給制で仕事に従事する。
 一方、実務スタッフは、臨時雇から構成される。臨時雇は、パートタイムの非正規雇用労働者で、現在54名いる。1年更新の契約形態で、時給制である。週3日、1日5~6時間労働である。その他に従業員ではなく、セラン会員という会員制度があり、フリーランスのカメラマンやデザイナーなど約70名が登録している。
 このように、ディレクションを担う「デスク」と実作業を担う「実務スタッフ」という区分けを設けながら、職務限定正社員である事業特化職社員、フルタイムの非正規雇用労働者である契約社員、パートタイムの非正規雇用労働者である臨時雇、そして特殊技能やスキルを持つフリーランスが登録するセラン会員と、同局では多様な雇用形態・職種を整備する。主婦層を中心とした女性をメインターゲットとしながら、それぞれのライフスタイルや価値観に対応し、また保有するスキルや専門性、志向等も考慮しながら、多様な働き方を実現できる機会を提供する。


業務体制

出典)東京急行電鉄株式会社(セラン事務局)提供資料、同社へのヒアリング調査をもとに作成




3.取組の内容②(職務限定正社員への登用)

◆事業特化職社員(職務限定正社員)への転換

 現在4つある雇用形態・職種のうち事業特化職社員は、セラン事務局業務に従事する職務限定の正社員として、2012年4月に設置された(2017年10月に現行制度へ移行)。ワークライフバランスの観点から、柔軟で多様な働き方を提供するとともに、職域拡大による雇用確保、適材適所の処遇実現による人材の活性化を目的とする。東急電鉄の方針として、同局における非正規雇用労働者の待遇改善を図り、離職防止やモチベーションアップ、戦略化をねらったものである。
 事業特化職社員に転換すると、給与水準がアップするとともに、東急電鉄の組合員となり、雇用が守られることとなる。また、職務がセラン事務局業務に限定されているので異動・転勤がなく、自宅から近い郊外で働きたいというニーズにも沿っている。
 同局では、事務局長は従業員と密に面談を行い、働き方に関する希望を聞いている。個別の相談ごとや案件については、マネジャーが日常的にやり取りする。評価は、正社員は年2回、契約社員は年1回、本人と上長が役割定義書に即して行う。こうした面談や評価を通して、臨時雇から契約社員、契約社員から事業特化職社員への転換の希望や可能性を、相互にコミュニケーションし、転換の機会を提供する。


セラン事務局が受託運営する東急電鉄Webメディア「とくらく」
(URL:http://www.tokyuensen.com/)

出典)東京急行電鉄株式会社「とくらく」ホームページ




4.取組の内容③(正社員登用等)

◆本社業務につく一般職への登用

 同局では、さらなる非正規従業員のキャリアアップに向けた方策として、本社である東急電鉄の業務につくことができる一般職への転換(正社員登用)も視野に入れている。
 事業特化職社員は、同局事業のみに従事する職限定正社員であるが、一般職になると、同局を離れて異動・転勤も想定される。
 今後同局において、一般職への転換が実現し、定期的に転換者が出るようになると、また非正規従業員のモチベーションアップにつながることが期待できる。

◆臨時雇のデスク補助への抜擢

 4つの雇用形態・職種の中で、臨時雇は54名と数的には最も多いが、その殆どが実務スタッフとして特定の実作業に注力する。この臨時雇に対し、一部に取りまとめなどデスク補助の役割を与えて、組織の活性化をめざす取り組みも行っている。
 こうしたデスク補助を配置することで、非正規雇用労働者の仕事に対する意識やモチベーションを高めるとともに、デスクの負荷を軽減し、他の仕事の受注拡大をめざす。


5.取組の内容④(柔軟な働き方)

◆DNAとしての柔軟な働き方の担保

 同局では、設立当初、学校帰りの子どもが職場に立ち寄り、親と一緒に帰宅するなど、子どもを育てながら働いていた。そうした過去の経験から、子どもや家族のことを優先する文化・風土をDNAとして持つ。
 この点は現在も変わることなく、働き方の柔軟性が高い。常にチームで仕事をしているので、同じ作業の中では仕事を代替しやすい。学校から急な呼び出しがあっても、他の人で対応するなど、補い合う働き方が浸透しているため、帰ることができるバックアップ体制ができている。


セラン事務局が制作したポスター、チラシ

出典)東京急行電鉄株式会社(セラン事務局)提供資料をもとに作成




6.取組の効果、今後の運用方針

◆働き手のモチベーションアップと職場としての魅力向上

 非正規雇用労働者の多様な就労機会を提供しつつ、キャリアアップや処遇改善に向けた制度整備や取組を推進することで、同局は着実に事業を拡大している。
 同局で働く者の多くは、郊外住宅地における身近な就労機会として事務職があった、という認識を持つ。また、東急が好きで、東急グループに対する親和性が高い者が多い。このため、元々、人手集めに困ることはなく、離職率も低いが、これに加えて正社員への登用の可能性があることが、さらに職場としての魅力を高めている。

◆今後の運用方針

 同局は、2018年10月に、現在のたまプラーザ駅南口エリアから北口エリアへの移転を控えている。大型マンションの一画に地域利便施設として、託児施設を併設した身近な就労機会を提供する。
 同局で働く者は、かつては子連れで就労し、子どもや家族を優先する意識や文化をDNAとして持つが、ISO27001の取得により、セキュリティ上、子どもは職場に入ることができなくなった。しかし移転後は、併設する託児施設を利用することで、子連れ通勤が可能になる。このたびの移転は、時代や環境の変化に対応しながら、沿線に住む育児期女性に対する「身近な就労機会の提供」という、同局の本来の役割を見直し、強化する契機とする。
 多様な働き方という点では、臨時雇から契約社員、事業特化職社員、そして一般職へとつながるが、実際のところ臨時雇すべての者がそれを望んでいるわけではない。お小遣い稼ぎでいいという者も多い。臨時雇は、実務スタッフとして必要なスキルがあればいいが、もっと上に上がるためには、俯瞰して判断する能力が求められ、負担が大きいと感じる者もいる。そうした考えや価値観も認めながら、正社員への転換を望む者に対しては、チャンスを与えていく。
 同局で働く者は、東急が好きで働き始めた者が多いが、同局で働くことで、さらに東急シンパになって欲しい。同局がコミュニティの場ともなる、それが同局の願いである。


7.活躍する従業員の声

企画制作チーム
マネジャー AAさん

年代 40代 性別 女性
勤続年数 15年
キャリアアップの過程 2002年10月、DTPオペレーターとして、企画・制作チームで臨時雇として働き始める。
その後、2004年4月に契約社員、2012年4月に事業特化職社員に転換。
現在、マネジャーとして、企画・制作チームをまとめている。

◆DTPオペレーターの仕事への思い

 結婚して子どもが生まれた後、DTPオペレーターになりたいと思い、前職は違う仕事で経験はなかったので、専門学校に通っていた。東急沿線に住んでいて、同局のことも知っていたところ、求人誌でDTPオペレーターを募集しているのを見て、応募した。自分がやりたいと思っている仕事で、当時まだ子どもが小さく、自宅からも近かったので、2002年10月、臨時雇として同局で働き始めた。
 その後、2004年4月に、契約社員に転換した。当時、プライベートな事情で仕事に安定を求めていたこともあり、契約社員になりたいと思っていたので、職場で声をかけてもらった際に転換した。
 さらに、2012年4月には、事業特化職社員に転換。事業特化職社員の制度が導入されたことで、上をねらいたいと思っていた。事業特化職社員は正規従業員なので、転換することで社会的信用が高まり、より安定する。仕事の面では、本社とのつながりが強くなる点が魅力であった。

◆セラン事業の拡大に対応

 事業特化職社員に転換して、全社の中でのセランの位置付けを考えるようになった。「責任感を持たないといけない。自分が東急電鉄の仕事をするという意識を強く持つようになった」と、AAさんは語る。
 事業特化職社員に転換後は、本社内の会議に、出席することで全社的な考え方が把握できるようになった。本社にとってセランは、社外業者とは違い、外部にはまだ言えないことも、セランだから相談できる。その期待に応えられるよう、相手の部署の立ち位置を考えながら企画・提案を行う。事業特化職社員になったことで、本社からの信頼も高まっているように感じられる。
 約10年の間に、臨時雇、契約社員、事業特化職社員とキャリアップしてきた。「それを目標としてめざしていたわけではないが、いろいろなチャンスをもらって、ステップアップしてきた。同局の事業拡大にともない、それに順応していった」と言う。AAさんがオペレーターをしていた2000年初頭の頃は、同局の中で、すべての作業をしていた。2007~2008年頃になると、セラン会員や協力会社など外部に仕事を出す立場になり、以前よりも仕事の範囲が広がり、仕事の量も増えていった。こうしたセランの仕事の進め方の変化や事業拡大の流れに、AAさんは対応しつつ、自身のキャリアを高めていった。


AAさんが企画制作を手掛けた紙媒体

出典)東京急行電鉄株式会社(セラン事務局)提供資料をもとに作成



◆今後はセラン全体を見据えたチームマネジメントを

 職場のさまざまな変化と機会を経て、AAさんは現在、マネジャーとして企画制作チームをまとめている。今まで制作を担当してきた経験や、事業特化職社員として本社の人たちとかかわって感じることを、後輩の教育・育成にも反映し、業務のさらなる質の向上をめざしている。
 また、次なるステップアップとしてAAさんが一般職登用をめざし、セランを離れ本社部門の新たなフィールドで活躍することは、人の循環という意味でもセラン事業の運営・継続に必要なことと捉えているようだ。